ハウスリストの重要性については既に多くのメディアで取り上げられており、多くのBtoB企業が効率的な運用をすべく試行されているかと思いますが、今回はその「重要性」について改めて解説いたします。
目次
そもそもなぜハウスリストが重要なのか
第一に新規リードは有限であるということです。
当然のことではありますが、自社がターゲットとする企業の数は限られており、開拓を続けるほど完全な新規リードは減っていきます。また、少子高齢化や社会環境の変化により、2015年に400万社あった企業数も2040年には300万社割り込むとの試算が出ており、今後ますます新規リードの開拓が難しくなっていくことは想像に難くありません。
そういった中で重要性を増してくるのが、過去にコンタクトを取ったことのある企業のリスト(=ハウスリスト)を、いかに顧客へと変えていくかということになります。
では、ハウスリストと新規リードの違いはどんな点にあるのでしょうか。
ハウスリストの大きなメリットの以下の3点になります。
①新規リード獲得にかかるコストがゼロである
②担当者や決裁者などの連絡先が分かっている
③営業によってお客様が感じる不快感を低減できる
新規リード獲得にかかるコストがゼロである
通常、新規リードを獲得しようとすると、展示会やイベントでの接触、テレアポや飛び込みなどの営業活動、お問い合わせや引き合いといった手段があります。
しかし展示会やイベントへの出展には多額の費用がかかり、同時に出展規模に比例して必要となる人員も増えていきます。
テレアポや飛び込みも取り組みも規模に比例して必要な人員が増えていくという点は同様で、この手法は空振りも多いため効率はそれほどよくありません。
お問い合わせやお引き合いについては既に十分な件数がコンスタントに来ていれば良いのですが、これから始めるとなると宣伝やプロモーションが効果を表すまでの費用と時間が必要となってきてしまいます。
また、企業の営業活動という点で考えると、商談・契約といった直接的な利益を生み出すための活動を優先せざるを得ず、新規リード獲得に割ける人員や費用には限りがあるというのが実情ではないでしょうか。
それらを考えると、既にコンタクト先の情報を持っており、新たに獲得するための費用を必要としないハウスリストの方が、費用対効果は高いと言えます。
担当者や決裁者などの連絡先が分かっている
テレアポや飛び込み営業で避けて通ることの出来ない道の一つとして「受付突破」というのがありますが、これを全てのアプローチ先で100%成功させられる営業マンはまずいないでしょう。
いつ、誰に、アプローチすればよいのかも分からず、闇雲にアプローチして空振りに終わってしまったら、情報収集や訪問先企業までの移動時間など、それまでに費やした時間が無駄になってしまいます。
広告のように幅広く認知を獲得することが目的であれば、それも一定の成果として見込めるのかもしれませんが、限られた人員と時間で、商談の場を作り、契約を取り、末永い関係を築くことを目的としているのであれば、これはやや非効率なやり方と言えます。
もちろん新規開拓のためにはこういった地道な努力も必要ですが、実際に受注に繋げていこうとした場合、むやみにアプローチ件数を積み上げるよりも、キーマンが分かっていてバイネームでアプローチできるハウスリストを活用した方が、受付突破に労力を割かずに本題に入れる分、効率が良いのではないでしょうか。
営業によってお客様が感じる不快感を低減できる
自分が立て込んでいる時にいきなり営業されたらどう感じるでしょうか。
感じ方は人それぞれですから、「熱心な営業マンだ」と感じてもらえることもあると思いますが、それ以上に「面倒くさいな」と思われることの方が多くありませんでしょうか。
それでも、1件でも2件でも多く受注に至ればよいという考え方もありますが、この先ますますそのような営業手法は敬遠されていくことになると思います。
既に電話や訪問に限らず、メールやチャット、Web会議など、さまざまなコンタクト手段が登場しており、お客様もその時々の状況でコミュニケーションチャネルを使い分けることで、業務の効率化を図っております。
そういった取り組みを行っている中で、強制的に時間を拘束される手法でいきなり営業されてしまうと、不快感を感じてしまうのも仕方がないことではないでしょうか。
また、お客様も人間ですから、営業する側が「自分(自社)のことを知って欲しい」「営業という立場を理解して欲しい」「有益な商談がしたい」と思っているのと同様に、お客さまも「自分が誰か知っていて」「状況が分かっていて」「有益な情報やタイミングで」話したいと思っているわけです。
ハウスリストであれば、これらの直接情報がある程度そろっているため、お互いに一定のコンセンサスがある中で商談に臨むことができます。
営業活動につながるハウスリストの作り方
新規リードの獲得方法にさまざまな手段があることは前述の通りですが、実際にハウスリストを作成する上で中心となるのは、どんなリードでしょうか。
それは「各営業マンの引き出しに眠っている名刺」です。
営業活動では、BANT条件(Budget=予算、Authority=決裁権、Needs=必要性、Timeframe=時期)が揃わないと契約に至らず、初回営業後にフォローをしても「まだまだ客」だと判断すると往々にして追い掛けるのを諦めてしまいがちです。
そして放置しているうちに、いつの間にか競合他社のサービスを利用し始めている、という状況が思い当たる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
日々の契約を追い掛ける営業マンにとって、直近の数字にならない見込み客を追い掛けるというのは、頭では分かっていてもなかなかそこまで実施できないのが現実です。
ですから、そういった名刺を纏めてリスト化してマーケティング部門などで一括してナーチャリングしていくのが得策です。
このリストは相手企業の状況や担当者のミッションといった属性情報以上の直接情報が含まれているので非常に有益です。
ただ、多くの営業マンは自分の名刺を渡すことに抵抗を感じます。自分が足で稼いだ戦利品に横槍を入れられるのが少し嫌なんですね。
そこで営業とナーチャリングを担う部門との間で、引き渡しのルールを策定しておくと良いでしょう。
これは商材のリードタイムにもよりますが「〇ヵ月以内に商談化」「〇週以内に再アプローチ」など、担当営業が直接動く期限をベースに、営業が責任をもって動けるものは引き続き営業担当が追い掛け、その期限を過ぎてしまったものや、対応しなかったものはナーチャリング担当へ引き渡すといった、数値化して計測できる分かりやすいルールで運用してみるとスムーズにいきます。
もちろん、運用になれてきたらさまざまな条件を組み合わせて精緻化していっても良いかと思います。
ハウスリストのボリュームを増やす
ハウスリストの中心となるのは営業マンの持っている名刺ということをお伝えしましたが、これだけでは十分なハウスリストが集まらずに、十分なアポ数が生み出せない、リードナーチャリングのサイクルが早すぎてアプローチがしつこくなってしまう、という状況に陥るケースも多々あると思います。
そこで次に大切になってくるのは、展示会でもらったものの訪問まで至っていない企業のリストや、Web上から資料請求があったものの訪問まで至らなかった企業のリストなどです。
初回訪問済みのリストに比べて情報量こそ不足するものの、担当者に直接アプローチできるリストですから、担当が分からない企業にアプローチするのと比べたら遥かに有益です。
また、少なくとも自社との接点を持とうとした方ですから、このリストも「今ではない」にしろニーズはあることが想像できます。
状況に左右されずコンスタントに数字を積み上げていくためには、こうした受注まで少し遠いリードに忘れられないよう、継続的なコミュニケーションを取りつつ、ステータスを管理してくことで、常に一定の成果が出るようにしていくことが重要です。
特にアポイントの創出を担当する方は、1件のアポはあくまで1件としてしかカウントされませんので、クロージングを行う営業マンのように高額受注で一発逆転を狙うといった考え方もできません。
このような距離感のリードと丁寧なコミュニケーションを続けてエンゲージメントを高めていくという意識を持って向き合うことが大切になってくるかと思います。
ハウスリストのセグメントを作る
ハウスリストの件数が増えてくると問題になってくるのがステータス管理の煩雑さです。
リードの取得経路の違いによる情報量の違い、これまでのナーチャリング活動による状況の反映、ヒアリング内容などの定性的な情報など、リードの見込確度やステータスは活動を続けていく中でさまざまに変化していきます。
その中でメルマガの一斉配信のような「忘れられないようにする」だけの施策を繰り返していると、なかなかお客様の気持ちは高まってきません。
『営業によってお客様が感じる不快感を低減できる』にあるとおり、お客さまも自分のことを分かってくれている人とコミュニケーションが取りたいわけです。
そのためには十把一絡げな施策だけではなく、お客様の状況やステータスに合わせたナーチャリングシナリオを考えていく必要があります。
このナーチャリングシナリオに関しては、セグメントの粒度や運用する人的リソース、商材、リードタイムなど、さまざまな環境要因によって最適なシナリオ本数が変わってきますので、ここでは弊社が一番最初に設計したセグメントルールをご紹介させていただきます。
①現在進行形でオンライン接点があるか (メルマガの開封やWebサイトへのアクセス)
②業種・業態・地域などの属性情報(受注のしやすさや営業に係る地理的要件での分類)
③ヒアリングシートの整備(加点項目と減点項目でスコアリングして4ランクに分類)
「①現在進行形でオンラインの接点があるか」はリードをアクティブかコールドかで大きく分類するためのセグメントで、「②業種・業態・地域などの属性情報」は施策の再現性を確保するためのセグメントです。
ハウスリストを整備してリードナーチャリングを行っていくためのノウハウが溜まっていない状態で理想を追い求めてしまうと、運用の中で発生するさまざまなケースに対処できなくなったり、場当たり的な対応ばかりになって後から施策やシナリオの効果を検証するすることが難しくなってしまうことが想像できましたので、中途半端な形で終わらないようにするために、まずは「アクティブな東京の企業でこれまでの導入実績が多い業種」に絞ってアプローチすることで、早く小さく確実にシナリオ成果の検証ができる規模から始めようと考えました。
「③ヒアリングシートの整備」は、こちらは初回接触からクロージングまでに交わされるコミュニケーションの内容を一般化したもので、主にステータス管理に使用します。
こちらは15の加点項目と4つの減点項目の合計値でA~Dランクにリードを分類しておりますが、ナーチャリング担当と訪問担当で共通シートを使用することで、A・Bランクは営業担当が追い掛け、C・Dランクはナーチャリング担当が追い掛けるという形が取れるようにしました。
おおまかなアプローチの分担は以下の通りです。
導入実績の多い業種2つ × C・Dランク = 4つのナーチャリングシナリオの運用
導入実績の多い業種2つ × A・Bランク = 担当営業がアプローチ
現在はさまざまな情報が集まったため、幅を広げたり、新しいセグメント条件を加えたりしておりますが、基本的には最少工数で成果が期待できる範囲から始めて、ノウハウの蓄積と共に徐々に周辺へと手を伸ばしていく手法を取りました。
風呂敷を広げすぎて導入が進まないという方がいらっしゃいましたら、参考にしていただければと思います。
最後に注意点
今回はハウスリストの作成~運用がメインでしたので、新規リードの獲得については、ハウスリストのメリットを説明する上での対比として、デメリットの部分だけしか触れておりませんが、これが重要ではないという意味ではありません。
ハウスリストは全て「過去の新規リード獲得獲得による成果物」です。
新規リードの獲得を止めてしまえばハウスリストは減る一方となりますので、新規リードの獲得とハウスリストからの引き上げ(=リードの入りと出)のバランスが取れるように、並行してやっていく、もしくは期間を区切って交互に注力するなどして、片手落ちにならないように気を付けていただければと思います。